Fallout 1なんちゃってリプレイ Vaultから来た男:Log09「Necropolis」

老人の牧場を占拠していたのは、はぐれもののレイダーらしく、ハブで装備を調えた俺たちの敵ではなかった。油断しきっていた所を急襲して出鼻をくじくと、拍子抜けするほど簡単に殲滅できた。彼らも老人ならともかく、武装した集団が攻めてくるとは思っていなかったらしい。
俺たちは手早く一味を片付け、ほとんど使われることの無かった弾薬を回収する。物資不足のこのご時世において、弾薬と薬品はかさばらずに高い金になる。地上に出て一月あまり。その辺はもうすっかりこの荒野での生活に適応出来たと言っていいな。

老人から謝礼を受け取り(その辺はきっちりギブアンドテイクだ)、手に入れた弾薬を換金すると、返す踵でネクロポリスに向かう。ま、山賊退治程度なら軽い準備運動ってとこだ。


ネクロポリスは、戦前にベーカーズフィールドと呼ばれていた都市だ。
しかし、建ち並んでいたビルはグレートウォーの際の爆撃で崩壊し、今ではがれきが埋め尽くす死の町と化した。

だが、この町がネクロポリスと呼ばれる理由はそれだけじゃない。
その理由を、町に踏み込んだ俺は身をもって知ることになる。

「うっ……なんだ、この臭いは?」
甘いような、饐えたような、生理的嫌悪感を呼び覚ます刺激臭。俺は思わず口元をおさえた。反射的に昇ってきた嘔吐感をこらえる。
「グール、だな」
タイコが言う。食事の時以外はガスマスクを外さないこの男は涼しい声だ。

グールとは、放射線の影響で遺伝子が変質した人類のことらしい。グールに変化した彼らは、老化が止まり、放射線にも強い耐性を持つ代わりに、皮膚が壊死と再生を高速で繰り返し、端的に言えば腐ったような外観になる。
肝心の中身といえば、普通の人間とあまり変わりないらしい。ただし、一部のグールは脳が冒され、知性が後退して野獣と変わりない状態のものもいるという。そう言うグールは野生――フェラルと呼ばれ、通常のグールと区別されるが、そこを理解しない人々も多く、加えてこの臭いと見かけのせいで、迫害を受け続けているらしい。

そのグールたちの町、それがネクロポリスの名の真の由来という訳だ。

俺たちは、ホロディスクの情報を頼りにネクロポリスを進む。ビルが倒壊し、道のほとんどがふさがれている上、グールに混じって町を徘徊するフェラルのせいで、一向に目指す地点にたどり着けない。
「仕方ない、地下を行こう」
タイコがマンホールを指して言った。腐臭の次は下水か。とはいえこの状況では背に腹は代えられない。鉄製の重い蓋を外し、闇に閉ざされた暗渠へと降りていく。

下水道は、臭いを除けば地表よりマシだった。核ミサイルの被害も、地下までは大きな影響がなかったようで、通行に支障はなかった。時折襲ってくるネズミをあしらいながらいくつかの角を曲がると、次第に臭いが変化してきたのに気づいた。下水の臭いに、地表の、あの腐臭が混じり始めたのだ。
そう思う間もなく、トンネルが曲がった先には複数の人影。グールだ。

「ま、待て! 争う気はない!」
フレアの明かりに照らされた人物は、やや不明瞭ながらも人間の言葉を話した。どうやらフェラルではないらしい。
見ればトンネルが広がって部屋状になったそこには、ベッドや棚などが運び込まれ、曲がりなりにもそこで生活していることが伺える。

「あんたらはなんで地下に?」
イアンが聞いた。言いながらも銃は下ろさない。
「地上におるのはここを仕切っとるグールのチンピラ共だ。奴らに従わなかったわしらは地下に追いやられ、ネクロポリスが襲われたときの使い捨てとして、ここで飼い殺しになっとると言うわけだ」
「なるほど。それで私たちに助けて欲しいと」
またしてもタイコが余計なことを言う。
「そうではない。気持ちはありがたいが、これはわしらの問題で、わしらが解決すべき事だ。それよりもあんた方は、何のためにこんな所まで?」
そうだった。俺はこのグールの長老に事情を説明する。

「……って訳で、もしかしたらここの水源はVaultから引いてるんじゃないかと思ってね」
「……その答えは、イエスでもあり、ノーでもある」
何とも面倒そうなことになってきた。

(Log09:EoF)