Fallout 1なんちゃってリプレイ Vaultから来た男:Log11「ウォーターチップ」
Vaultの扉は開いていた。いや、開いている、と言うより、扉そのものがない。Vault15のように破壊されて外れたのではなく、そもそも最初から閉まった形跡がない。
地下にあるとはいえ、外気にさらされ続けた内部は、錆び付き、荒廃するままとなっている。かろうじて非常用電源は生きているらしく、内部は非常灯の赤い光でぼんやり照らされている。いや、非常灯の他にも、何かぼんやりとともる明かりがある。
灯りはゆらゆらと揺れながらこちらに近づいてくる。人型だ。
「我らが地に断りもなく立ち入るとは」
それは言葉を発した。グールだった。
有無を言わさず襲いかかってきた発光グールは恐ろしくタフだったが、俺たちの集中砲火を浴びて文字通り崩れ落ちた。
「いったい何なんだ、こいつは」
おそるおそるブーツの先でつついてみる。
「いわゆる『光りし者』だな。グールの中でも、特に強い放射線にさらされた者が変化すると言われている」
タイコが言った。
それでさっきの扉の合点がいった。やはりこのVaultは扉が閉じなかったのだ。グレートウォーの核ミサイルによって発生した放射性降下物は、このVaultにも容赦なく吹き付け、避難した人々は死ぬか、グールか、光りし者になったというわけだ。普通のグールは地上に上がり、この光りし者たちは地下にとどまった。
「おいおい、それじゃこの辺は放射能で汚染されてるのか?」
とイアン。
「どういう訳かここの汚染値は通常レベルだな。もしかしたらこいつらが吸収してるのかもしれん」
ハブで買ったガイガーカウンターが早速役に立った。死体に近づけると反応が上がるが、遠ざけると基準値に戻る。どうやら体液を直接浴びたりしなければ大丈夫そうだ。
エレベーターも何とか稼働していた。ボタンを押すと、酷い軋みとともにカゴが上昇してきて、扉が開く。ウォーターチップがあるなら、最下層のコマンドセンターだろう。俺たちはエレベーターを最下層に直行させた。
最下層も似たようなもんだった。あちこちに光りし者がうろつき、なにやらブツブツつぶやいている。入り口の奴以外は襲いかかってくることもないが、俺たちを見ると遠巻きに見つめ、何事かささやき交わす。ほとんど聞き取れなかったが、「変化」「受け入れる」とか何とか。おそらく、自分たちこそこの世界に適応した生き物だと言いたいのだろう。
ある意味でそれは正しいが、だからといってはいグールになります、なんて訳にもいかない。人間には人間の都合があるのだ。
浄水装置は難なく見つかった。奥で奇跡的に稼働し続けていた装置のパネルを開き、慎重にボードを抜き取る。盛んに水音を上げていた装置の唸りがやみ、あたりに静寂が広がった。
コマンドセンターにいる光りし者たちが襲いかかってくるかと思ったが、そんなこともなく、相変わらずうつろな目で俺たちを見つめるだけだ。
「水が絶えるときが、お前たちの死ぬときだ」
陰気な声が俺たちを追いかけてくる。
ネクロポリスをあとにして、俺たちは一路Vault13に向かう。シェイディ・サンズ、Vault15からハブを経由してネクロポリス、Vault12。色々あったが、ようやく凱旋だ。俺の旅はもうすぐ終わろうとしている。
そう思っていた。
(Log11:EoF)