Fallout 1なんちゃってリプレイ Vaultから来た男:Log10「巨人」

「わしらは元々、ポンプを使って地下水をくみ上げておった。しかし、その肝心のポンプが壊れ、それからは町の地下にある古いVaultの浄水設備を使用しておるのだ」
グールの長老は言った。
「ならイエスじゃないか」
「それはそうじゃが、お前さん方が浄水設備のチップを持っていったら、わしらは渇いて死ぬしかなくなる」
「ポンプを直したらどうだ?」
イアンが提案する。ごもっとも。
「わしらもそれは考えた。だが、ポンプを直すための部品がこの地下のどこかにあるんだが、ここいらに棲み着いた凶暴なネズミ共が邪魔をして探しに行けんのだ」
「つまり、その部品を探し出してきて、直して欲しいと」
とタイコ。余計なことを、と言いたいところだが、この流れからしたら、そうなるしかないよな。
「そういうことになるな」
ほら。


「『わしらの問題』じゃないのかよ」
「わしらとしては、水がポンプから来ようが、Vaultから来ようがどっちでもかまわんのだ。ただ、お前さん方がチップが要り用なら、こういった平和的解決手段もあるぞと提案したまでだ」
「なるほど……って、それを聞いて俺たちがチップを持ってトンズラしたらどうするんだ?」
「お前さん方がそう言う輩なら、こうやって話をしておらんだろうし、そうでないにしても、早かれ遅かれチップは持っていくだろう。それなら、あんた方が義理堅いほうに賭けてみるのも悪くないと思ってな」
あ、きたねえ。そういう攻め方をするのかよ。
「分かった、分かったよ。最大限努力するよ」
「期待しとるよ……ああ、それと」
まだあるのか。
「ポンプのある建物は、最近流れてきた得体の知れない連中に占拠されとるのだ」
「得体の知れない?」
「グールでも人間でもない、恐ろしげな見かけの輩で、なぜかわしらグールには手出しせんが、人間にもそうだとは限らんぞ」

グールでも人間でもない? イアンやタイコに視線を送っても心当たりはないようだ。その辺は出たとこ勝負って事か。

ポンプの修理に必要そうなパーツ(パイプやパッキン、耐水テープやなんやらだ)はすぐ見つかった。ネズミごときに後れをとる俺たちじゃないが、戦闘経験のないグールたちにとっては天敵らしく、回収に来た彼らの遺体をあちこちで見ることになった。Vaultの水源を見つけるまでは、死活問題だったのだろう。その数はかなりにのぼっていた。

「テオ、分かってると思うが……」
タイコが何か言いかけて、やめた。まったく、どいつもこいつも。

地下道がつなぐ、がれきの中の空き地の一つにそれはあった。元々広場だったのか、かなりのスペースがひらけていて、わりと大きな建物が、倒壊に巻き込まれず残っていた。
そして、周辺には異様な風体をした人影。

身長は2mを軽く超える巨体に、異様に発達した筋肉、その皮膚は黄褐色に変色し、分厚いタイヤのような質感だ。10mm弾程度じゃ1cmもめり込むかどうか。さらにだめ押しで、抱えている巨大な銃や火炎放射器と来た日にゃ、いくら俺たちといえども、歯が立つかは怪しい。だが。

しばらく観察していて気づいたこともある。ノソノソ歩き回る様、かみ合わないバカでかい声の会話。どうやらこいつら……
「アホだな」
大男、総身に知恵が何とやらで、どう見てもオツムに血が巡ってるようには見えない。

そう言うわけで、俺たちは堂々と、武器も構えずに正面玄関に向かっていった。

「まて、おマエたち、グールじゃないな?」
建物の入り口にいた、ひときわ大きな奴が誰何してきた。さすがにその程度の知恵はあるらしい。
「いや、グールですよ?」
「バカにするな。おマエたち、グールとみためがチガう。おマエたち、ニンゲンだろう! ニンゲンはつれていくようにメイレイされてる! つれてかないのはグールだけ!」
ご親切に、聞いてもいないことまで教えてくれる。
「いやあ、俺たち、グールになったばかりなんですよ。これから本格的にグールになってくところなんで。ほら」
と、以前の戦闘で火傷した腕を見せる。
「間違って人間じゃないのを連れて行ったら、あんた叱られちまいますよ。ほらあの偉い……」
「マスター」
「そうそう、マスターに」
「うーん? そうか。なら行ってもいい」
ふう、こいつらがアホで助かった。

ポンプは建物の奥、倉庫の片隅にあった。話に聞いたとおり、パイプの一部が壊れて水をくみ上げられなくなっている。地下道で見つけたパイプやらで何とかつなぎ、怪しいところはテープでぐるぐる巻きにする。
「よし、いいぞ。動かしてみてくれ」
数時間の悪戦苦闘の後、何とかポンプは動き出した。地下からごぼごぼと水が上がってくる音が聞こえる。
「しかし、この水って単なる地下水だろ。それって……」
「おそらく放射能汚染されているだろうな。だが」
タイコは水のラインをVaultからポンプに切り替えて言った。
「彼らにとっては別にそれでも問題ないようだな」
タフだねえ。ともかく、これで懸案の一つは片付いた。後はVaultからチップをいただくだけだ。俺たちは水のサブラインを辿って建物の奥へと進む。思ったとおり地下への縦坑に続いている。

おきまりの地下ネズミを蹴散らしながらたどり着いたのは、見慣れた鋼鉄のゲート。Vaultだ。

(Log10:EoF)