Fallout 1なんちゃってリプレイ Vaultから来た男:Log06「ネゴシエート」
5日後。俺たちは『カーンズ』と名乗るレイダーのキャンプを見下ろす丘の上にいた。
「中央の建物の入り口前に1人、左のテントに2人ずつ、右のテントに1人」
偵察してきたイアンが報告する。
建物の外だけで6人か。中にも4~5人はいるだろうから、合わせると10人以上。
「正面から行っても勝ち目はないぞ」
「まあ、そうだろうな」
「どうする?」
「正面から行く」
俺は言った。
Vault15の捜索が空振りに終わり、シェイディ・サンズに戻った俺たちは、青い顔をした村長たちに出迎えられた。
俺たちがいない隙を狙ってか、村にレイダーが押し入り、村長の娘、タンディを攫っていったのだ。聞けばカーンズは捕らえた人間を奴隷として売り飛ばしていて、それで商品価値の高そうなタンディに目を付けたらしい。
そんなわけで、行きがかり上というか情が移ったというか、俺たちが奪還任務を受けることになったという訳だ。我ながら人が良すぎるな。
「お前、俺の言ったことを聞いてなかったのか!?」
「まあ聞け。何もバンザイアタックをしようってんじゃない。奴らが奴隷商なら、損得勘定で動かせばいい。要はタンディに見合う代価を提示できればいいんだが……」
「そんなものあるのか?」
イアンは眉を上げて尋ねる。
「もちろんない」
「お前な」
「最後まで聞けよ。交渉はそんな単純なものじゃないぞ。代価がないなら、商品に価値がないと思わせるか、リスクがあると思わせればいいんだ」
「お前の話はさっぱり分からん」
だろうな。俺にだって確信がある訳じゃないが、ここでじっとしてても仕方がない。後は成り行き次第だ。
というわけで俺たちはキャンプの正面から堂々と入っていった。見張りが誰何する機先を制してこちらから声をかける。
「おい、お前!」
「な、なんだ」
案の定調子を狂わされた見張りは、上手くこちらのペースに乗ってきた。
「奴隷の件で話がある。責任者に話をつなげ」
その間も歩みを留めず、中央のバラックに近づいていく。
「てめえ、何様のつもりだ!?」
「無駄話をしている暇はない。それともお前がこの件の始末を付けるのか?」
始末、と聞いて見張りの気勢が削がれる。その隙を逃さず建物に入り、奥へ通じる扉を開く。
「何事だ?」
部屋の中央、でかいソファにふんぞり返り、女奴隷を侍らせた男が言った。山賊の頭という風体で、非常にわかりやすい。
「すいませんお頭。こいつが勝手に……」
「まあいい。それで?」
レイダーの頭領、ガアルがぎろりと睨め付ける。
「お前たちが攫ったシェイディ・サンズの村長の娘の件で来た」
「ああ、あの女か。上玉かと思ったら、とんだ跳ねっ返りだぜ」
「まだ分かっていないようだな。シェイディ・サンズは先日、お前たちもよく知っている軍隊と契約を交わした。これが契約書だ」
俺は懐から書類を取り出し、顔の横で振ってみせる。
「そしてこれが、現在シェイディ・サンズに向かっている軍の様子だ」
そういいながら、左腕に付けたPip-Boyを、相手に見えるようにかざすとボタンを押す。画面には行軍する一個大隊の様子が、勇壮な音楽とともに、様々な角度から映し出された。
部屋の中は騒然となった。ガアルも、浮かしていた腰をソファに落とし、真剣な面持ちになる。
「俺にどうしろと?」
「幸い、軍はまだシェイディ・サンズに到着していないし、わたしとしてもこんなつまらんことで軍を動かしたくはない。村長の娘を無事に帰し、今後シェイディ・サンズに近づかないと約束するなら、この件はわたしの一存で無かったことにしてもいい」
ガアルは黙り込んだ。あまり考える時間を与えてもまずい。俺はきびすを返す。
「交渉決裂のようだな」
「ま、待て!」
あわてた声でガアルが引き留める。
俺は飛び上がりたいのをこらえて、無表情で振り返った。
「ほんっとすごかった! あのガアルがあんたの言いなりになるなんてさ! それにあいつらの顔、村のみんなにも見せてあげたいくらい! うーん、いい気味!」
興奮したタンディは、レイダーのキャンプが見えなくなるやいなやまくし立てた。
「それにしても、あんな軍隊と話を付けるなんて、いったいどうやったの?」
「俺もそれは気になっていた」
ずっと黙ってた……というか、黙ってるように念を押したんだが、イアンも言った。
「ありゃハッタリだよ」
当然、あんな軍隊にはコネもツテもあるわけがない。『契約書』はPip-Boyの保証書だし、軍隊の映像はもちろんPip-Boy用のホロ映画だ。第一、軍隊の様子にBGMがついてたりカットが変わったりするはず無いだろ。
種明かしをすると、紅潮していたタンディの顔がみるみる蒼白になった。
「あんた、そんなペテンでガアルと渡り合ってたわけ?」
「まあ、そうだ」
「信じられない。ホント図太い神経してるわね……」
あきれ顔でタンディがつぶやく。イアンも呆然と首を振る。
そう言うな。俺だって平然とやってのけた訳じゃない。俺はじっとりと冷たい手のひらを、ジャケットの裾にこすりつけた。
(Log06:EoF)