Falloutリプレイ tMfV:Log15「ゆきてかえりし物語」

トレーダーを襲った犯人の情報は良い稼ぎになった。約束の500ハブドル(例のボトルキャップだ)に加え、ホロディスクの証拠を加えてボーナス込みで800。これで弾薬と当面の食料、そこそこの防具がまかなえるはずだ。

「しばらくは北西のルートは閉鎖するか、強力なキャラバンを組む必要があるな」とトレーダーの元締め。
「その北西なんだが、何か心当たりはないか? 話によるとブラザーフッド・オブ・スティールの本部があるらしいが」
「BoSなら多少は取引があるが、キャラバンを襲うような奴らじゃないな。第一、キャラバンを襲って彼らが得をするようなことはなにもない」


話によると、基本的な立場は不干渉ながら、BoSはごく簡単な機械(といっても、地元民にとってはまさにロストテクノロジーだ)と引き替えに物資を入手しているらしい。今回のホロディスクの読み出し装置も、BoSとの取引で大枚はたいて手に入れたものだそうだ。
ともかく、他では滅多に手に入らない品物を扱っているというだけあって、BoSとの取引は完全に彼らが主導権を握っているわけで、わざわざキャラバンを襲ったりする理由がない、というのが元締めの主張だ。ディスクにあった、人体実験まがいのウワサも聞かない、というかBoSの本拠地に部外者が立ち入ること自体があり得ない事らしい。
「ふうむ、手がかりなしか」
「ボス、例のハロルドがたしか、北西がどうこうとか……」
と、現場を取り仕切るルトガー。
「あんなイカレグール野郎の言うことをいちいち真に受けていられるか」
元締めが顔をゆがめて吐き捨てるように言う。
「今はどんな情報でも欲しい。そのハロルドってのは?」
「言っておくが、アイツはデスクローのジジイの倍はイカレてるぞ。それでもかまわんなら、居場所を教えよう」

そのハロルドとやらの住み処は、なんと言うことはない、例のデスクローじいさんの寝泊まりしているバラックの一室だった。
言われたとおりのドアを開けると、酷い匂いが鼻を突いた。忘れようとしても忘れられない、ネクロポリスと同じ腐敗臭だ。
そんな中、日の光もろくに入らないようなボロ部屋の奥に、そいつはうずくまっていた。

ネクロポリスのグールも皮膚の壊死が酷く、直視するのに気力が必要だったが、このハロルドに比べればまだマシというものだった。彼の体は骨格から奇妙にねじれ、所々皮膚を突き破って露出してしまっている。その皮膚は蝋細工を炙ってから放置したように溶け崩れてから角質化し、樹皮のようなゴムのような質感に変貌していた。何より恐ろしいのは、その姿でまだ生きている、ということだ。

老人(たぶん老人だろう)は、時折激しく咳き込みながらも、奇妙なストーリーを物語り始めた。

彼は元々、Vaultの住民だった。早い段階で扉を開放したVaultを出た彼は、トレーダーとなり方々を巡回して暮らしていた。しかしある時、キャラバンをスーパーミュータントに襲われ、命からがら逃げたした彼は、仲間を募って奴らを追跡したのだという。

北西に向かって幾日も追い続けた結果、彼らが目にしたものは、ミュータントが群れをなす軍事基地の跡地だった。
復讐心と探求心で基地に侵入したものの、生き残っていたセキュリティシステムに阻まれ、最深部に到達したときに残っていたのはハロルドと親友のグレイ、フランシーヌ、マークの4人のみ。フランシーヌがロボットにやられ、マークが負傷して行方不明になりつつも、二人は何かの液体を生成するプラントにたどり着いた。しかし、装置を調べようとしたそのとき、ロボットクレーンが動作して二人ははねとばされ、グレイは酸らしき液体の中へ、ハロルドは大ケガを負いながらも何とか基地を脱出し、運良く通りがかった知り合いの商人に助けられ、ハブに連れてこられたのだそうだ。

しかも、不幸はそれだけでは終わらなかった。基地内の何かが原因したのか、彼の体はいびつにゆがみ始め、そのまま元に戻らなくなってしまった。信頼できる医者だったグレイは既にこの世にはなく、ハブの医者では原因の見当すらつかない。恐ろしい姿に変わり果てた彼は、追い立てられるようにスラム地区のオールドタウンに身を潜め、死を待つばかりの生活を送っているのだという。

まったく、馬鹿げた話だった。トレーダーの元締めがまじめに取り合わなかったのも当然だ。だが、どんなに信じがたい話であっても、否定する要素がない以上、それが真実なのかもしれない。

やはり調べてみなければならない。ハロルドの見た基地がなんであったにしろ、そこには何かがあるはずだ。

(Log15:EoF)